工場には、品質管理を担当する部署が必ず設置されています。安全・安心な商品を顧客へ届けるために、製造工程や社内体制を整備する仕事を担当します。
特に食品工場などは、顧客が口にするものを製造しているため、品質管理部の業務は重要です。2000年代前半に全国的な騒動となった雪印グループのように、ひとつの不祥事で信用が失墜し、グループ全体の売上が急落したケースも少なくありません。
品質管理は文字通り、メーカーの “最後の砦” を担う仕事と言えます。
そんな工場の品質管理で求められる能力とは、いったいどんなものでしょうか。
工場の品質管理に求められる能力は、想像力と仕組み化する力
工場の品質管理で必要な能力は、大きく2つあります。「想像力」と「仕組み化する力」です。
具体的には、以下の通りです。
- 想像力:起こり得る事故などを想定し、それを未然に防止する上で大切なポイントを見極める力
- 仕組み化する力:ヒューマンエラーを防止するためのルールや製造フローなどを作る力
要は「想像力を発揮して立案した方針を、仕組み化する力で形にする」のが、工場の品質管理担当の仕事ということです。
では、それぞれなぜ必要なのか、具体的に見ていきましょう。
工場の品質管理の仕事内容
まず前提として、工場の品質管理の仕事内容を押さえておきましょう。
工場の品質管理担当の仕事は、大きくは「安全管理」と「品質管理」の2種類に分けられます。
- 安全管理:工員の作業上の安全を管理するためのルールづくりや改善といった業務
- 品質管理:商品の安全性、信頼性を担保するためのルールづくりや改善などの業務
品質管理というと、食品の安全性やクオリティを維持するための仕事=後者だけに目が行きがちですが、製造工場で働く人々が安全に働けるように仕事環境やルールを整備するのも大切な仕事です。
安全管理の代表的な仕事は、整理整頓や報連相の徹底といった業務上の基本的なルールを整備したり、そのルールを遵守するように研修したりすることです。
一方、品質管理の代表的な仕事は、製造工程の見直しや設備それ自体の改善などが該当します。
品質を管理する仕組みが整っていても(品質管理業務がきちんと行われていても)、それを工員がきちんと使わなければ(安全管理業務に不備があれば)、製造された食品の品質は維持できません。そのため品質管理担当は、品質管理だけでなく、安全管理も徹底しなければいけません。
それぞれの仕事は、さらに「製造工程前」「製造工程中」「製造工程後」に分解できます。具体的には、以下のようなイメージです。
製造工程前の仕事
たとえば、製造前の整理整頓などをルール化したり、工場設備の状態をチェックしたりします。
品質管理業務はデスクワークが中心ですが、ときには現場へ出向いて、設備や環境をチェックするといった泥臭い仕事もあります。
具体的には、製造機器のボルトが外れていないか、ネジが落ちていないなどを目視で確認するといったイメージです。また、材料や製造した商品を保存する冷蔵庫の温度のチェック、さらには温度を測る温度計が正常に機能しているかを確認するなど、細かくチェックをかけます。
ほかにも原材料の品質検査や仕入先がルールを守って納品しているかをチェックするといった仕事もあります。こうした仕事は全体的に地味で泥臭いですが、しかし大切な仕事です。
また従業員管理なども、品質管理担当の重要な仕事です。
たとえば、昨今は新型コロナウイルスが流行していますが、こうした感染症の社員の感染状況を確認・記録するのも、品質管理部門の担当です。畜産系などでは、鳥インフルエンザや口蹄疫、豚コレラなどの家畜伝染病の確認・管理も欠かせません。
さらに、社員が通勤に使っている車や、仕入先のトラックの状態などにも気を配らなければいけません。たとえば食品メーカーの工場の場合、畜産農家のトラックが、家畜の毛やフンを荷台に乗せたまま工場へやって来るといった事態も起こります。こうしたケースへの改善対応も品質管理担当の仕事です。
製造工程中の仕事
商品を製造する工程に関わる仕事です。具体的には、工場設備のチェック、製造工程の改善、工員の業務ルールの策定など、実に幅広い業務に携わります。
網羅するのは難しいので、ざっと列挙しますと、以下のようなものがあります。
- 設備の保守・点検を行う
- 設備を使用する手順やルールを決める、守らせる
- 設備が壊れても、金属や薬品が商品に混入しない設計・フローにする
- 想定される事故に対応した設備を選定、導入する(ex. 虫が入らないよう、防虫対応の設備にする)
- ヒューマンエラーを防止する製造フローを構築する
製造工程後の仕事
これは主に「検査」が該当します。大きくは次の3つの検査を行います。
他にも、不良品が発生した時の原因の調査や改善策の立案、さらに事故に対して入ったクレームへの対応なども品質管理担当の仕事です。
以上が、品質管理担当の簡単な仕事内容です。より詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
食品工場の品質管理は辛い。仕事内容・やりがい・向いている人の特徴。
「想像力」と「仕組み化する力」が求められる理由
では、こうした業務を担当する上で、なぜ「想像力」と「仕組み化する力」が求められるのか、見ていきましょう。
まず、ここまでお読みいただいたように、工場の品質管理担当の仕事は、実に多岐にわたります。先ほど書いたように、もはや網羅できないほど幅広いです。
では、なぜ網羅できないのでしょうか?
それは、製造工程中にどんな要因で事故が起こるのか分からないからです。
たとえば、一般的にもよく知られている事故として、異物混入があります。こうした事故は起こり得る事故として想定しやすいので、対策も立てやすいです。ですが、およそ想像できない要因で事故が発生することもあります。
しかし、予想だにしなかった事故が起こって顧客の健康などを害してしまった場合、「予想できませんでした」が通用するかというと、もちろん不可能です。
つまり、どんな経路から事故が起こり得るかを可能な限り想像し、未然に防ぐ対策を立てられなければ、品質管理は務まりません。
ただ、再発防止策も単純に「気をつける」「工員の知識や技術を磨く」などではいけません。人は必ずミスをするものです。言い換えれば、人の能力に依存する対策は、事故が起こる確率は下げられても、起こるのを防ぐことはできません。いつか必ず同じミスが起こります。
大事なのは、人の手によらない防止策を構築することです。これが「仕組み化」です。
たとえば、工場内で筆記具を使うケースを考えてみましょう。この筆記具が商品の中に混入してしまうのを防ぐには、どんな対策を立てればいいでしょうか。
「社員ひとりひとりが管理をしっかりする」などはNGです。人によって管理能力は異なります。また「持ち込まない」もNGです。業務で必要なものですから、持ち込まないわけにはいきません。
有効な対策としては、たとえば「金属製のみ持ち込み可能にする」があります。こうすれば、万が一ラインに筆記具が落ちても、金属探知機が発見してくれます。その時点でラインを止めれば、事故を未然に防げます。
また「分解できない筆記具のみ持ち込み可とする」という施策も考えられます。予期せぬ形で筆記具の一部が脱着してラインに紛れてしまう事態を、これで防げます。
こうした仕組み化を推し進められることが、品質管理に求められる能力です。
もちろん「想像力」と「仕組み化する力」以外にも、品質管理をめざす人に求められる能力はさまざまありますが(コミュニケーション能力など)、特に大事なのはこの2つです。面接などでは、この点のアピールを意識しておきましょう。