DIYブームもあって、認知度が少しずつ高まっている「溶接」。実は工場転職の中では人気が高い職種として知られます。
特に最近の溶接工の志望動機で多いのが、
- 自分の手で物を生み出せる仕事がしたい
- パソコンと向かい合うだけの味気ない仕事が嫌になった
- 企業は採用してくれないから、人手が不足してる職人になろうと思った
というもの。中でも「手に職をつけたい」「ものづくりに携わりたい」といった動機が多いように感じます。
ですが、溶接工への転職志望者に「溶接ってどんな仕事?」と聞くと「火花が凄い」「金属を溶かしてる仕事」と、理解が漠然としていることも多いです。
溶接工への転職を考えている場合は、まずはその仕事内容についてしっかり理解しておきましょう。
溶接工の基本データ(平均年齢、月給、賞与など)
はじめに溶接工の基本データを押さえておきましょう。
溶接工の基本情報
労働者数…6,716人
平均年齢…40.7歳
平均勤続年数…11.4年
※総務省統計局「日本の統計」より
溶接工の年齢構成
※厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」より
溶接工の男性/女性の比率
※厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」より
9割が男性・1割が女性です。2015年の調査より女性の割合が少しですが増えました。
溶接工の基本給・賞与・年収(※単位:万円)
年齢 |
基本給 |
賞与 |
年収 |
全体平均 |
25.8 |
58.3 |
367.9 |
〜19 |
18.3 |
14.7 |
234.3 |
20〜24 |
20.0 |
42.8 |
282.8 |
25〜29 |
21.6 |
52.8 |
312.0 |
30〜34 |
26.0 |
53.1 |
365.1 |
35〜39 |
26.5 |
66.5 |
384.5 |
40〜44 |
28.7 |
75.8 |
420.2 |
45〜49 |
29.3 |
74.9 |
426.5 |
50〜54 |
30.3 |
73.8 |
437.4 |
55〜59 |
31.9 |
73.9 |
456.7 |
60〜64 |
27.4 |
47.7 |
376.5 |
65〜69 |
25.3 |
31.7 |
335.3 |
70〜 |
24.1 |
38.7 |
327.9 |
※厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」より
※年収は、基本給*12+賞与で計算
年収の全体平均は368万。最も伸びる60手前で457万となっています。
溶接工の残業時間(※単位:時間)
年齢 |
残業時間 |
全体平均 |
26 |
〜19 |
21 |
20〜24 |
31 |
25〜29 |
31 |
30〜34 |
30 |
35〜39 |
27 |
40〜44 |
27 |
45〜49 |
26 |
50〜54 |
23 |
55〜59 |
22 |
60〜64 |
11 |
65〜69 |
8 |
70〜 |
1 |
※厚生労働省「平成30年賃金構造基本統計調査」より
残業時間は、若いうちは技術の勉強などで少し多めですが、全体としては少ないです。
溶接工の仕事とは
それでは、溶接工の仕事内容を詳しく見ていきましょう。
溶接とは
溶接とは、2つ以上の金属を溶かしてくっつける技術です。”溶”かして”接”合する(くっつける)ので「溶接」と書きます。
溶接は大きく以下の3種類に分かれます。
- 融接:熱の力で金属を溶かしてくっつける
- 圧接:圧力や電気の力で金属を溶かしてくっつける
- ろう接:金属は溶かさず、間に挟んだ溶加材を溶かしてくっつける
たとえば、皆さん学校の授業で経験があると思われる「はんだ付け」は、ろう接の一種です(正確には融点450度未満の溶加材を使ったろう接が、はんだ付けと呼ばれます)
現在の製造業で最も多く使われている溶接は、融接の一つである「アーク溶接」で、中でも以下の3つが主流です。
- TIG溶接(アルゴン溶接):ステンレスやアルミなどの接合で使われます
- MAG溶接(CO2溶接):鉄の接合で使われます
- 被覆アーク溶接
また、溶接はやり方によって、以下のようにも分けられます。
- 自動:すべて機械がやってくれる
- 半自動:溶接自体は自分でやるが、溶かすための部材の供給は機械がやってくれる
- 手溶接:溶接も、溶かすための部材の供給も自分でやる
TIG溶接、MAG溶接は自動・半自動で溶接できる機械がありますが、被覆アーク溶接は人の手で行われます。
溶接の原理
溶接は「トーチ」と呼ばれる道具の先端(タングステン電極)から放電を発生させ、その熱で溶接材と母材を溶かしてくっつけます。この放電を「アーク」といい、その温度は5,000~7,000度にもなります。
それぞれはんだ付けに置き換えますと、
- トーチ:はんだごて
- 溶接材:溶かす金属棒(はんだ)
- 母材:はんだ付けする対象物(基盤など)
となります。
この溶かす作業が十分じゃないと金属同士が溶け切らず(=くっつかず)、かといって時間をかけ過ぎると溶接箇所が酸化して黒く焼けてしまいます。この焼けは「スケール」といい、腐食などの原因となってしまいます。
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溶接工は初心者でもなれる
溶接工は資格や免許が必要な仕事ではないので、初心者でも就けます。
初心者は、しばらくは技術を身につける勉強の日々です。
溶接は経験や勘が物を言う職人の世界なので、学んで身につけるより、見て盗む・やって身につけるスタイルが基本になります。特に上に行くほど、独学で身につけなければなりません。
これを悪い慣習と批判する声も多いですが、決してそうではありません。そもそも言葉で説明できないからです。
未経験者の場合、最初に道具の使い方や基礎的なコツなどは教われます。しかしレベルの高い技術ほど、精密機械でも再現できない繊細な感覚が要求されるため、とにかく先輩の仕事を見て、自分なりに試行錯誤して磨いていくしかありません。これは良い悪いではなく、溶接工とはそういうものです。
また、溶接工に必要なスキルは、溶接だけではありません。作る物の図面を書いたり読んだりする知識も必要です。
さらに、今後は頼まれた物を作る受託仕事だけでは経営的に厳しいといわれ、自社ブランド製品を作って販売する町工場なども増えてきています。そうした所で働く場合、デザインスキルなどがあると仕事の幅が広がります。
もっとも初心者のうちは、溶接と図面の知識の習得に集中しましょう。この2つがしっかりしていないと仕事ができません。
溶接工のキャリア
15~20年かかってようやく一人前なので、溶接工として働き続けるケースが多いです。年代別の勤続年数データを見た感じ、若い方は別職種への転職も検討するようですが、40代以上だと工場を変わることはあっても、職は変わらない傾向です。
また、溶接工に必須の資格や免許はないと書きましたが、任意で取得できる資格はたくさんあります。初心者の場合、何らかの資格の取得を目標に腕を磨く方が多いようです。
ただ、多くの資格は「持っていると箔がつく」「仕事の発注者からの信頼が得られる」というものです。よって、なくても仕事に支障はありません。
しかし、中にはガス溶接など決められた資格がないと出来ない溶接もあります。こうした資格は持っていると仕事の幅が広がります。
徐々に人気が出ている女性の溶接工
DIYの流行からか、少しずつですが溶接工という仕事を選ぶ女性も出てきています。日本溶接協会も「溶接女子会」という女性向けコンテンツを充実させており、女性たちにもっと溶接を知ってもらおうと頑張っています。
溶接工の魅力
溶接工の魅力には、大きく次の3点があります。
- 手に職がつく
- オンリーワンになれる仕事である
- ものづくりに携われる
なにより手に職がつくのが魅力ですね。
溶接は、工作機械や水道管などはもちろん、家具やアクセサリーなど実に幅広い分野で活躍しています。溶接の技術があれば、活躍できる分野はたくさんあります。
また職人の世界のため、腕を磨くほど、替えが効かない人材になれます。つまりオンリーワンになれる仕事でもあります。そのため「自分の替えがいくらでもいる会社で働くのがむなしくなった」という理由で、溶接工をめざす転職志望者も少なくありません。
ものづくりに携われるのも魅力のひとつですね。自分が溶接した製品を見ると、やはり嬉しくなるものだと言う方は多いです。
溶接工に向いている/向いていない人
ここまでを踏まえて、溶接工に向いている/向いていない人を整理しておきましょう。
向いている |
向いていない |
一つの作業を黙々とこなせる |
飽きっぽい |
一つのことを深く追求できる |
広く浅くが好き |
社内での交流が少なくても大丈夫 |
社内イベントなどが多くないと嫌 |
こだわりが強い |
こだわりがない |
感覚的 |
理性的 |
溶接工は職人の世界ですので、一つのことを深く突き詰めていける人が向いています。逆にいえば、飽きやすかったり色々な経験を積みたかったりする人には向きません。
溶接工の多くがこだわるものに「ビード」の出来があります。これは接合面にできる溶接跡のことで、服でいう縫い目です。このビードを見るだけで、溶接の腕前が分かるといわれます。
溶接工は綺麗なビードを見ると興奮するといわれるほど、ビードに対するこだわりが強いです。誰もが美しいビードをめざして、日々技術を磨いています。美しいビードを一生かけて追い続ける仕事が溶接と言っても過言ではないほどです。
加えて、どうしても言葉では説明できない感覚の世界なので、何事にも理由や説明を求める人は向きません。ここが民間企業とは大きく違う点ですね。
溶接工の注意点・危険性
日本溶接協会によれば、溶接工の仕事には以下のような障害のリスクがついて回ります。
- 角結膜炎(電気性眼炎)
- 白内障
- 皮膚炎
- 皮膚がん
- 皮膚の老化
- 青光障害
ものすごくざっくり言ってしまうと「やけど」と「目が見えにくくなる症状」です。特に初心者のうちは「気づかないうちに手袋が燃えていた」という経験した先輩もたくさんいます。
またアークの光はとても強烈で、裸眼で見てしまうと、視力が一時的に低下したり、視野の一部が黒くなって見えなくなったりする恐れがあります。そのため溶接中は必ず専用のマスクやメガネで目を守ります。
ちなみ「コンタクトレンズをつけた裸眼でアークを見たら、レンズと角膜がくっついてしまい、レンズを剥がすときに角膜まで剥がれて失明してしまった」という情報がネットに出ていますが、これは日本溶接協会によって「虚偽である」と報告されています。
溶接工は誰でも就けて、奥が深い一生モノの仕事
溶接工の仕事には資格は必要ないため、誰でも未経験から挑戦できます。一つのことにとことんこだわれる気質の人にはピッタリの仕事でしょう。年収は他の仕事より低いですが、残業時間は少なく、働きやすい環境といえます。
9割が男性のため、女性にとっては入りにくい世界かもしれませんが、今は少しずつ溶接工を仕事に選ぶ女性も増えています。
船や電車、巨大建造物からアクセサリーまで、人々の生活に欠かせない物を作る溶接は、難しいながらもやりがいにあふれた仕事と言えるでしょう。