日常生活においてさまざまな場面で使用されているのがベアリングです。日本語では軸受けともいいますが、このベアリングは回転するものに対して使われており、車軸やモーターなど自動車や家電といった消費者の身近なところで活用されています。
そんなベアリングですが、一般的に購入することはまずありませんが、日本でも多くのベアリング工場が稼働しています。そこで、ベアリング工場で働きたい人に向けた基本的な知識と、ベアリング工場での仕事内容をここで紹介していきます。
ベアリングとは
ベアリングとは「軸受け」といいますので、軸の回転を支える(受ける)役割があります。基本的に機械の回転部にはベアリングが組み込まれているものです。機械工場で勤務しているとベアリングの摩耗や交換といった言葉をメンテナンス時に聞くものですが、一般的には聞き慣れない言葉でもあります。
そこでベアリングの仕組みをまずはみていきましょう。
ベアリングの仕組み
ベアリングは「外輪」と「内輪」、「ころ(ボール)」、「保持器(リテナー)」から成り立っています。外輪と内輪の間にころを保持器でセットし、内輪に軸を通すことで安定して滑らかな回転を実現します。
ベアリングがセットしてある軸が回転すると、ころが回り(転がり)ます。後述しますが、ベアリングは摩擦を無くして軸が滑らかな動きをするのを助けるのが役割です。
ベアリング自体は回転するのが仕事ですが、それによってエネルギーの消費を抑える効果があります。
ベアリングが使われているところ
ベアリングは回転部分に必ずといっていいほど使用されています。主に自動車が有名ですが、外から見ると回転するのはタイヤといえますが、実際にはエアコンやエンジンのモーターなど、大小含めて100個以上のベアリングが組み込まれているものです。
さらに鉄道車両や航空機、テレビや冷蔵庫などの家電、パソコンなど数えきれないほどのところで使用されています。物を動かす力の多くは回転してエネルギーを作りますが、それに対してベアリングが活躍しています。
ただ、ベアリングは外から見えないような位置に組み込まれているので、一般消費者が目にする機会はあまりありません。ベアリングは回転部にあたるので、見える位置にあると手が当たってケガをする恐れもあるからです。
軌道輪(外輪・内輪)・転動体・保持器
ベアリングには外輪と内輪がありますが、これらは軌道輪といわれ、内輪は軸にはめ込んで外輪は取り付けとはめ合いに用いられます。また、転動体にはボールところがあり、ころは「ローラー」ともいわれています。この転動体が転がることで滑らかな回転を実現していますが、転動体同士が干渉しないように保持器にセットしなければなりません。
回転するものには基本使われている
ベアリングは先述しましたが、回転部には基本的に使われています。風力発電の羽を回転しているベアリングは相当大きく、2M以上もの直径を誇ります。逆に電子部品に使われるようなベアリングはかなり小さいものです。ベアリング本体が小さいということは、組み込まれる転動体はより一層小さい部品となるでしょう。
摩擦をゼロにして滑らかに回転させる役割
ベアリング本来の役割は摩擦を少なくすることです。回転する部分には当然ながら摩擦が生じます。摩擦が起こると回転軸に膨大なエネルギーが発生し、回転することもできなくなってしまいます。
ベアリングが交換になる場合、原因は別として基本的にモーターの回転が弱くなります。すぐに気付いて交換すれば問題ありませんが、本来のエネルギーでは回せなくなるので負荷がかかり、最終的にモーターが焼き付いて高温を発して故障するケースがあります。
古代までさかのぼる歴史
ベアリングは古代にまでさかのぼります。ピラミッドの建築にころが使われており、重い石を運ぶのに地面との間に丸太を置き、石を引っ張りながら転がすことで少ないエネルギーで仕事がはかどるようになったといわれました。この丸太をころの替わりにしていたのが先人の知恵というべきものでしょう。
その後もお城の建築など、日本でも大型の工事に使われています。そして、現代に使われているころを保持器で固定するイメージを発案したのが、中世の発明家であるレオナルド・ダ・ヴィンチで、ころ同士が干渉しないように保持器を使っているスケッチが残されていました。
ベアリング工場の仕事
次にベアリング工場の仕事をみていきましょう。
前工程
前工程は鋼材メーカーから仕入れた材料で鍛造します。鍛造では鋼材を切断し、プレス機を使って変形しながら成形していきます。鍛造でできた製品を旋削である程度形に仕上げていき、外輪や内輪、ころの形が出来上がっていくのです。
次に熱処理で高温の焼き入れと焼き戻しを行って強度を上げていきます。使われる用途によって高負荷がかかる製品には炭素を浸透させる浸炭品の熱処理加工を行います。
また、ヘッダー加工で材料を製作する場合もあります。棒状の素材を切断して金型に打ち込み、形を作っていきます。旋削よりも安価で材料を作れるのがメリットです。
研削工程
出来上がった材料をベアリング工場に運び込まれていき、ここで研削盤を用いて研削していきます。外径にはセンタレス加工が主に用いられ、ブレードと調整砥石にワークをセットし、研削砥石によって加工されていきます。
芯高角によって算出された芯高差によってワークに正円作用が働き、真円度を向上させていきます。研削工程ではセンタレスの外径以外にも溝加工や表面(端面)加工が必要になる場合があるでしょう。
センタレスの代表的な加工方法はスルーフィード研削で、入口から出口までワークが整列したまま研削できるので、大量生産に向いています。また、ころの加工ではインフィード研削もあり、あらかじめR加工されたテンプレートで砥石をドレッシングで形状を作り、1本ずつワークを近づけることで加工していきます。スルーフィード研削よりもサイクルタイムはかかりますが、製品精度は向上するのが特長です。
加工には㎛が使われており、1μ単位で寸法を調整しています。
研磨工程
研磨加工とは、その名の通りワーク表面を磨く加工方法です。ベアリング工場では主に現場の最終工程となるスーパー加工(超仕上げ)で用いられます。研削工程で仕上がった表面の粗さを取り除く加工方法になり、回転しているワークを研磨砥石がまたぎながら磨ぐことで表面の凸凹をならしてきます。
スーパー加工は粗さだけではなく、真円度の向上にも大きな役割を持っており、外観精度も向上させるのが特長です。
検査工程
現場での最終工程が完了したら、次は検査工程に入ります。主に作業者が測定器にワークをセットして寸法公差を測定します。1本ずつ測定することもあれば、ロットごとに抜き取りで測定する場合もあるでしょう。
また、外観の検査も大事です。打ち傷や擦り傷、工程飛ばし、光沢など、出荷先は客先となりますからここで漏れがあると重大クレームにつながりますので慎重な作業が求められます。
検査工程はすべて作業者がやることもあれば、自動機を導入して作業者の負担を軽減させている職場もみられます。自動寸法測定機や自動外観測定機など、DX化によって大量注文にも対応できるような取り組みが広がっています。
組み立て
ベアリング工場では転動体と軌道輪を別の工場で加工しているものです。大きな企業ではグループ会社でころの加工を担当している場合もあります。ころ単体を購入している海外の企業も見受けられます。
ベアリングの組み立て工程では加工された転動体(ころやボール)と軌道輪(外輪・内輪)、保持器をそれぞれ組み付けてベアリングとして完成させていきます。
組み立ては工場として独立している場合もあれば、ベアリングの種類によって外輪・内輪の後工程として同じ工場で組み立てされている場合もあるでしょう。
完成品検査
完成品検査はベアリングとして組み立てが完了した後の検査工程になります。すでに外輪・内輪やころといったパーツは検査をクリアしていますので、はめ合いや組み立て後に付いた傷の確認、音響検査など、自社工場で最後に行う検査工程です。ここをクリアするとあとは洗浄や梱包などを通して市場に流通するようになります。
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ベアリングの種類
ベアリングにはどのような種類があるのかみていきましょう。
転動体は大きく分けてボールところに分かれる
転動体には大きく分けてボールところに分かれています。ボールはそのまま球体となっており、高速回転の軸に最適な役割を果たしています。一方でころは荷重のかかる高負荷で使われることが多くなります。
また、ベアリングの中には転動体を使わない「すべり軸受け」という特殊なものもあります。
ラジアル荷重とスラスト荷重
ボールところに関わらず、ベアリングにはラジアル荷重とスラスト荷重に適したタイプがあります。ラジアル荷重は軸に対して垂直方向の力を指し、スラスト荷重は軸と平行の力がかかる場合をいいます。
このスラスト荷重はアキシアル荷重ともいいますので、工場や部署によって呼び方が異なるでしょう。また、ベアリングによってはどちらの荷重にも対応できる種類があります。
主なベアリング
ベアリングの主な種類をみていきます。
深溝玉軸受
一般的に流通が多いベアリングで、世界的にも非常に多くの工場で生産されています。高速回転可能でラジアル荷重がメインですが、両方向のスラスト荷重にも耐えられるのも特長です。摩擦抵抗が小さいので振動も抑えられますし、さまざまな分野で活躍している人気のベアリングといえるでしょう。
円錐ころ軸受け
ころが円錐の形をしており、角度が付いています。大径側と小径側の差があるので、研削加工時に周速が異なるためスリップしやすく、加工方法も難しいのが特長です。ラジアル荷重とスラスト荷重の両方に耐えられます。
針状ころ軸受け
ニードルベアリングともいわれており、細長いころをたくさん並べています。一見すると耐久力のなさそうなイメージに見えますが、非常に大きなラジアル荷重にも対応できるのが特長的です。
円筒ころ軸受け
円筒形になっており、ラジアル荷重での大きな力にも対応できます。円柱形状の意味を持つ「シリンドリカルローラー」とも呼ばれています。荷重のかかる場所だけでなく、高い衝撃にも耐えられるのが特長的です。
アンギュラ玉軸受け
ボールが接触する面に角度を付けたベアリングで、ラジアル荷重とスラスト荷重に対応しています。角度は15°・30°・40°とあり、小さければ高速回転にも対応し、大きければスラスト荷重の負荷にも耐えられるようになります。
生活に欠かせないベアリングはやりがいある仕事
ベアリングは生活に欠かせないものです。自動車や家電はもちろん、建築関係の産業機械や病院での医療器具にも多数使用されていますし、ゲーム機などの娯楽品に使われています。ベアリング工場で働くことは日々の暮らしを支えているといえますので、非常にやりがいのある仕事に感じるでしょう。
ベアリング工場で働くには
ベアリング工場で働くには、大手の求人だと期間工を募集していますので、転職サイトから応募するのが得策です。地域に密着した工場も多くて、地方郊外に拠点を構えることもあり、社宅や寮を完備しています。ベアリングは軌道輪や転動体に関わらず、未経験者も多数歓迎しているものなので、興味があれば応募してみるのもおすすめです。
工場で稼働している設備というのは、多くのベアリングが組み込まれています。機械工場に関わらず、食品製造業や化粧品、日用品の部品を製作している工場であっても、機械のメンテナンスにベアリング交換が必要となるケースは多々あります。
それだけにベアリングはまだまだ需要の見込める業界ですから、未経験でも歓迎しているのはありがたい業種といえるでしょう。
ベアリング工場での注意点
ベアリングは部品メーカーですので、基本的に一般消費者の手元に届くわけではありません。品質などでクレームが入るのは主に取引先の企業からです。ベアリングで客先からクレームが入るというのは結構な問題です。
そもそもベアリングは軸が滑らかに回転するのを助ける役割があります。摩擦もゼロにするくらいなので、ベアリングが何らかの不具合を起こすということは、回転している軸の動きも止まってしまうことにつながります。
これが自動車の車軸なら事故につながります。そして、鉄道車両の場合になると、車軸に使用されているベアリングが剥離してしまうと、脱線の恐れが出てくるでしょう。乗客も大勢乗っている鉄道車両では人命に関わるとてつもない被害になってしまいます。
特に速度の速い新幹線で不具合が生じれば企業の死活問題に発展するでしょう。また、国内だけではなく、海外企業で問題が起きれば現地に人を派遣しないとなりません。
ベアリングで怖いのは焼き付きや剥離による割れや欠けで、そこに荷重が圧し掛かるところが回転しなくなってしまいます。摩擦が生じて軸にも焼き付けが発生し、組み込まれている各部品にも致命的なダメージが発祥するものです。
それだけに普段から目に見えない位置にあるベアリングは、品質面でもしっかりとした対応が望まれます。
日本の大手ベアリングメーカー
日本の大手ベアリングメーカーをみていきましょう。日本ではほぼ大手3社がシェアを占めており、この3社は世界でもTOP10に入るほどとなっています。
・日本精工(NSK)
日本でベアリングを最初に開発し、量産にも成功した老舗企業です。軸受けメーカーとして日本最大手となり、世界でもTOP3に入るほどの大企業です。アジア、欧米を含めて世界にもたくさんの事業所があり、ベアリング以外にもパワステやボールネジといった主力製品を送り込んでいます。
・NTN
NSKに次いで大手の軸受けメーカーで国内だけでなく、世界にも多数の事業所を構えています。ベアリング以外ではドライブシャフトのシャアが世界でも高く評価されています。大阪に本社を置き、発祥の拠点ともいえる三重県桑名市では地元の一流企業として活躍しています。
・ジェイテクト
愛知県に本社を構え、国内有数のトヨタ系列の大手軸受けメーカーです。ステアリングや工作機械も手掛けています。国内に拠点を絞っていますが、トヨタグループの一角ですので、将来的にも安定した仕事が期待できるでしょう。
まとめ
ベアリングは日常生活においてもさまざまな場面で活用されており、製造に携わることは日々の暮らしにも役立っています。回転する部分に必ずといっていいほど使用されていますので、今後の需要も十分見込めます。
ベアリング工場も人手不足に陥っている職場は多くあり、未経験者も歓迎しているので、まずは期間工から応募してみてはいかがでしょうか。