工場の工程には研削や研磨の他に面つぶしを行うタンブラー工程があります。工場によって研磨と同工程として扱うこともあるものですが、実際に設備は違うので作業自体は異なるものです。年々客先要求の品質レベルも上がっており、バレルなどのタンブラー工程は必須となっています。そこで、製造業や工場勤務を目指す人に向けてバレルタンブラーの基礎知識を解説していきます。
バレルに代表されるタンブラー工程とは
タンブラーとはエッジやバリが立っている面をつぶす効果があり、バレルタンブラーは鏡面仕上げといって光沢を出して粗さなど精度を向上させる効果が見込めます。
多くの工場ではバレル研磨の工程でタンブラーに入れていますが、製品精度を向上させるバレル研磨の他に、単に錆や汚れを除去するためのスケール落としも行う部署があります。それらは工場や部署で使われる材料や材質によって異なるでしょう。ただ、タンブラーのことを総じて「バレル」と呼ぶことも少なくありません。バレルとタンブラーを分けている場合もあるので、工場や部署によって捉え方はそれぞれ違うでしょう。
Webで検索しても、一般的にタンブラーは研磨工程で、バレルによる鏡面仕上げが主流といえます。これは検査前の最終工程になるので、特に重要な工程となるからです。しかし、実際にタンブラーは最終工程だけでなく、熱処理後のスケール落としや研削途中の粗さ対策など、どの工程にするかは工場によってさまざまといえます。
タンブラーは専用の容器に水と研磨剤、砥石を入れて製品(ワーク)を投入し、振動によって摩擦を生み出してワークの品質精度や外観を向上させていきます。こちらは次に詳しくみていきましょう。
タンブラー工程の3要素
タンブラー工程には槽という専用の容器、研磨剤(コンパウンド)、メディア(砥石)と3つの要素があります。それぞれをみていきましょう。
バレル槽
バレル槽とはワークを投入する専用の容器です。後述しますが、バレル研磨の種類によってそれぞれ容器は異なります。たとえば槽の下部にスプリングがあり、モーターとバネの力で振動を実現させて槽の中で製品の流れを作ります。これは振動バレルと呼びますが、それ以外にも回転させながら流動を作る回転バレルなど、それぞれ種類が違うのが特長です。
大量生産に向いている容器もあれば、少量した投入できないものの、精度品を入れることができるタイプもあります。
メディア(研磨石)
メディアは研磨石とも呼び、ワークに干渉させることで摩擦を生じ、表面を磨いていきます。メディアにはさまざまな種類があり、用途に合わせてメディアを変更しなければなりません。小さなワークに大きなメディアを投入しても細かいところまで当たらず、製品精度は向上しないので、ワークの外径よりも小さなサイズを使用します。
厳密にメディアは砥石なので砥粒と結合剤から成ります。アルミナやセラミック、プラスチックが主な成分となり、形状も円錐や円形、三角形が主流です。粗・中仕上げ・細仕上げごとに使い分けることもあります。
コンパウンド(研磨剤)
タンブラーは槽に水が入っており、コンパウンドという研磨剤を投入することでワークの防錆効果を高められます。家庭用洗剤でも使われる成分が使用されており、高い洗浄効果が見込め、研磨の働きをサポートする役割があるのです。
ワークとメディアが干渉し過ぎると衝撃によって傷が発生することもありますが、コンパウンドはクッション材のような働きをするので、擦り傷や打ち傷を抑えることが可能です。
おすすめ工場系求人サイト
工場求人ナビ
- 求人数が少ないが、求人の品質の定評があります(2019オリコンランキング1位)
- 優良企業が多い(ブラック企業に当たりにくい)です
- 面接来場(合否不問)でQUOカード1,000円分がプレゼントされます
- 検索メニューはメリットで絞るだけと、シンプルで使いやすいです
- 「残業少なめ」で検索できます(できないサイトが多いです)
お仕事情報ネット
- およそ10,000件と業界最多規模の掲載求人数
- 正社員求人、正社員登用求人が多めです
- 高時給、高月給の求人が多めです
- 工場事務の特集ページ、寮あり求人のみの特集ページなどがあります
タンブラーの役割
バレルに代表されるタンブラーは主に最終工程で使用されます。最終工程は完成品ですので、ワークの外観基準の維持向上、均一化、研削工程で発生したエッジやバリの除去が主になります。
ワークにエッジやバリがあると出荷後に組み付けや組み立ての工程で干渉して、傷や劣化を伴う現象が起きることが考えられます。研磨工程でエッジやバリを除去できればいいのですが、研磨機の加工範囲でどうしても砥石が当たらない部位が出てくるものです。
そのようなときに役立つのがワーク全体をメディアと干渉させるタンブラー工程となります。
また、熱処理後にワークへ不純物が付着している場合、研削工程で不具合が生じる可能性も否定できません。タンブラーは流動しながら高い洗浄効果を保ちますので、これらのスケールを除去できる効果が見られます。
さらに、熱処理では高温で焼き戻しする材質があります。これはワークが完成品として負荷がかかる環境で使用される場合、アンモニアや炭素を用いて特殊な焼き入れ・焼き戻しをすることがあるので、熱処理後に炭で焦げたような外観になりがちです。
このような場合、材料を納品した後で、現場に搬入する前に一度前工程としてタンブラーを行うことが見られます。このまま研削してしまうと、調整砥石に汚れやスケールが付着してしまい、ワークの回転を妨げてスリップし、安定した品質を保てない恐れが生じます。
バレルタンブラーの種類
次にバレルタンブラーの種類をみていきましょう。それぞれ違う用途になるので、工程だけでなく、ロットの大小でも適応力が異なります。
回転バレル
回転バレルとは八角形の容器にワークとメディア、コンパウンドを投入し、槽を回転させることで流動を生み出していきます。一般的なバレルタンブラーとなり、設備的なコストも安価なのが特長です。ガラガラ抽選でよく見かける容器がイメージしやすいといえます。あのガラガラ抽選の木箱も八角形で出来ています。回転させて流動スポットを生み出して、中に入っている小さなカラーボールをランダムに入れ替えています。ただ、自分が回すときには最初の回転で排出側にある通路に入るカラーボールは決まっていることになります。
回転バレルは上部へ舞い上がったワークとメディアやコンパウンドが、槽の回転によって滑落してきます。この滑落によって槽には一部分だけ流動的なスポットができますので、メディアとワークが何度も摩擦し、表面やエッジを加工していきます。
回転バレルは大型のタイプから小型まで種類が豊富にあり、大量生産に向いているのがメリットです。特に同一タイプの大ロット品を継続して生産する場合、一般的な研磨機ではエッジやバリ取りに時間がかかり過ぎてしまうものでしょう。回転バレルなら均一な仕上がりで生産性も期待できますし、管理する作業者の負担も減らすことが可能です。
ただし、バレルタンブラー自体のサイクルタイムは遅くなります。これはゆっくりと回転させることで、流動的なスポットでの摩擦によるダメージを軽減させているからです。大量生産に向いているとはいえ、タンブラーだけを担当している作業者からすれば、手待ち時間が発生することになるでしょう。
また、基本的に横向きで回転するため、密閉しないとなりません。タンブラーの仕上がり具合を途中で判断するのができないデメリットが生じます。
振動バレル
縦置き型でおわん型のバレル槽には中心に振動を発生させるモーターがあり、下部にはそれらを支えるスプリングが付いています。回転と上下に動く振動を組み合わせ、常に流動を作りながらワークを摩擦していきます。
回転バレルは一部分しか流動スポットがありませんが、振動バレルはバレル槽全体に流動スポットが発生し、回転バレルよりもきめ細かい製品精度を満たすことが可能です。振動中は傷の発生を抑えることができるのは大きなメリットといえるでしょう。
しかも、振動バレルは密閉する必要がありません。作業中にワークの仕上がり具合を手に取って確認できます。バレル槽のサイズとワーク寸法によりますが、大量生産も可能です。排出する際には出口を解放するだけでいいので、自動化できるのも特長といえるでしょう。
ただし、振動バレルにも注意点があります。振動による騒音が堪える作業者もいるでしょう。実際にスプリングは外から見えるようになっていますので、防音効果があるものではありません。タンブラー作業自体は水を扱いますので、基本的に工場内でも広いスペースを確保しているものですが、近くで作業している人からすると心身に負担が生じてしまうので、耳栓などの着用が必須かもしれません。しかしながら、普段から騒音があるので、耳栓をしてしまうと、作業者同士の連絡が大声でないと聞き取れないこともあり得ます。
また、振動バレルは自動化も可能ですが、ワークの外観基準がかなり厳しい場合、排出された後でワーク同士の干渉によるキズの発生が懸念されます。とはいえ、排出されてきたワークを一本ずつ手作業でポリ容器に入れ替えるようだと、作業性がいいとはいえません。何か工夫が必要となるでしょう。
遠心バレル
遠心バレルは複数個(基本的に4つ)のバレル槽を用意して全体を公転させながら、一つずつのバレル層が逆回転で自転します。遊園地のアトラクションにもありそうなイメージです。遠心バレルは公転が入るだけでなく、回転バレルよりも高速で回るので、強い遠心力が発生します。
遠心バレルは短時間での加工に向いています。他のバレル加工よりも優れた製品精度を満たし、サイクルタイムの削減で効率化を図ることが可能です。
ただ、高速回転しますので当然ながら容器は密閉しないとならず、回転バレル同様に仕上がり具合を途中で確認することができません。また、バレル層が複数あるので十分な製品精度を満たす代わりに大きなサイズは加工できません。一度に大量投入できないので、複数の槽に分けて投入・排出する作業は少し面倒に感じられるでしょう。
製品精度を決めるのは加工条件
タンブラー工程では砥石を扱うので実際の工程は「研磨」になります。このことからバレル研磨は、研削加工で精度を満たしているワークへの外観を向上させるのが主な役割ともいえます。研磨は砥石で磨き上げるという意味合いで、超仕上げとして最終工程に用いられるものですが、エッジの面つぶしによるR加工も可能です。これは研磨機ではなかなかできないところであり、手作業ではかなりの時間が生じてしまいます。
また、タンブラー工程では面つぶしによる粗さを抑えることが可能です。ワークの粗さ測定では、一定区間の長さから平均値を算出するRa値を基本にしている場合が多くみられます。このRa値は直線で見た場合、破線の山が突出して中心から上下にはみ出ているものです。ところが、研削工程で図面基準を大幅に上回っていても、面をつぶすことで破線の山を小さくすることができますので、Ra値の減少に効果を発揮します。
これらを満たすためにはバレル研磨にもそれぞれ加工条件が必要となります。メディアのサイズや量、コンパウンドの量、そしてワークサイズと水の量に加工時間です。何でも適量でいいというわけではなく、単にスケールや錆を除去したいだけの場合や光沢を出したい場合、Ra値を抑えたいときなど、それぞれの決められた加工条件を守らないと安定した品質を供給することができません。
さらに、外観基準で厳しいワークであっても、光沢を出して鏡面仕上げが可能なバレル研磨だと、外観検査のNG判定を削減し、不良コストを抑えて改善することも可能です。外観が綺麗な光沢を出すことで、外観検査作業員の基準も統一しやすく、それぞれの負担を減少できるでしょう。不良率が多い工場だと、検査員のストレスもかなり高いといえます。
そのためにも、光沢を出しやすい加工条件をきっちりと遵守し、加工時間はタイマーでパトランプを点滅・点灯させるなど、見える化をする必要があります。
バレルタンブラーの注意点
バレルタンブラーの作業自体は難しいものではありませんので、工場勤務が初心者の人にも比較的スムーズに作業に入れます。そこで、バレルタンブラーにも注意点がありますのでみていきましょう。
ぬすみにメディアが当たらず錆や汚れが除去できない
ワークには外径とエッジの面部を主に加工します。ただ、ワークによっては「ぬすみ」という形状が存在していることもあります。この「ぬすみ」とは凹み部分のことで、通常の研削工程では砥石が当たらず、製品精度に直接影響しない部分となります。
旋削やヘッダーといった前工程で加工されたままの状態で製品を出荷することが多く、自分たちでは加工を担当しないので、見逃しがちになるものです。
この「ぬすみ」部分で錆や汚れが発生していると、外観判定でNGですし、万一出荷してしまえば客先に良い印象を与えません。「ぬすみ」が小さい場合、メディアが当たらないことも考えられます。製品精度に影響がないので「ぬすみ」を無くしたいものですが、部品メーカーの場合だと通常品と浸炭品で同一寸法のワークが存在しているものです。これらは使用先の環境によって耐久が大きく変わりますから、市場に流通してから発覚すると大問題になります。そこでぬすみ形状をつけてワークの差異化を図り、外観で異品混入がすぐに分かるように努めているものです。
よってワークサイズだけでなく、ぬすみの形状によってメディアを変更しないとならないので注意が必要となります。
摩擦による高熱で水打ちと防錆ができていないと錆が発生
バレルタンブラーはどの加工方法でも摩擦を生じますので熱が発生します。決められた加工条件を守っていると問題ないですが、どうしても作業過多で少し多めに投入したい場合や残業時間、休憩時間で作業者がいないのに稼働することもあるでしょう。もちろん、やってはいけないことですが、これを放置すると熱がたまり込んでしまい、加工が完了してから錆びやすくなってしまいます。途中で水打ち(水を追加)すれば温度を下げられますが、このようなケースが発生する職場だとそれも期待できません。
また、防錆がしっかりできていないと錆びやすくなります。水を使うタンブラー工程では金属は錆びやすいものです。防錆液が入った容器にワークを入れた鉄カゴなどを直接漬け込むことで、一気に防錆することが可能となります。
しかしながら、この防錆容器も水が混入してしまいますから、定期的に水抜きをしないとどんどん劣化していきます。このことからも防錆液の交換や補充、水抜き、容器の洗浄などはサイクルを決めて行わなければなりません。
まとめ
バレル研磨に代表されるタンブラー工程は、工場にも欠かせない加工方法であり、スケール除去やエッジ・バリ取り、完成品の光沢を出すのにも使われています。バレルタンブラーはそれぞれ「回転バレル「振動バレル」「遠心バレル」が主にあり、メディアやコンパウンド、水、時間を加工条件でしっかりと決めることで、最適なタンブラー加工を実現します。
タンブラーの作業自体は難しくないので、工場勤務初心者でもほとんど問題なく作業できるでしょう。