工場での転職を目指す人にとって溶接の仕事がどんなものなのか気になるものでしょう。そもそも溶接とは製造業に欠かせない職種であり、需要が見込めるものです。一般的に溶接は熱くて難しそうというイメージがあるものですが、一度手に職を付ければさまざまな分野の仕事が可能となります。
自動車の板金がメインとなるものの、機械工場などでは改善や保全に溶接が必要となるケースもあり、建築現場でも溶接の仕事は多々あります。
そんな溶接の仕事がどんなものなのか、溶接の種類や資格についても解説していきます。
溶接とは? どんな仕事
溶接とは基本的に金属同士を加熱して接合する技術を指しています。溶接の歴史はかなり古いもので、今日までにさまざまな製品の開発に役立っており、自動車だけでなく家具や家電、建築物など、日常生活に欠かせない技術といえるでしょう。
この溶接で仕事をしている人を溶接工と呼び、接合するだけでなく、金属を補強するのにも使用しています。溶接工は大きく分けて自動車の板金などで働く製造業、住宅や施設を建築する建設業でも溶接を担当することが多くあります。
溶接の主な種類
溶接には「融接」「ろう接」「圧接」と3つに分かれています。次にこの3種類を紹介していきます。
融接
融接とは一般的な溶接方法です。材料となる母材の金属を溶かして接合し、冷やしてから固めます。代表的なのがアーク溶接です。放電現象を利用して熱を発し、金属を溶かして接合していきます。明るい光が出ますので、ゴーグルを着用した姿をテレビなどでよく見かける」ことがあります。
工場勤務が未経験の人ではこのアーク溶接がイメージしやすいといえるでしょう。アーク溶接はかなり強い光を発するので直接目で見るのは危険です。中心部で16,000℃にも及ぶ強い光が特徴といえるでしょう。
また、アーク溶接以外にも「ガス溶接」も融接となります。ガスバーナーを使用して接合する技術となり、アーク溶接よりも高温となります。
ろう接
ろう接とは母材となる材料を溶かさずに、ろうを用いて低温で接合する技術です。溶加材にろうを使用するばあいはろう付けで、半田を使用する場合は半田付けといいます。
ろうと半田は温度で違いがあり、半田のほうがさらに低温で450度未満の場合は半田を使用します。
また、ろう接は気密性の高い部品の接合に向いており、バルブやパイプに使用されるものです。
圧接
圧力をかけて母材を接合するのが圧接です。一般的にプレス機がイメージしやすいものといえます。代表的なのが電流を流して加圧しながら抵抗熱で溶解する技術で、スポット溶接とも呼ばれています。圧接は機械で圧力をかけるので、数値で制御しやすく、工場の自動化を指すFA(ファクトリーオートメーション)にも活用されています。
また、圧接には摩擦やガス、超音波などの種類があり、さまざまな場面で効率よい圧接方法が取られています。
溶接の資格
溶接工で働くには資格を取得するところから始めます。工場未経験の人たちにとって、溶接は難しい技術とイメージするものですが、資格は意外にも簡単に取得できます。一般的に技能者と管理者に分かれています。
技能者は実務業務を担当する人を指し、管理者は上位資格で技術者を管理監督します。建設などではプラントなどの大きな設備を担当するので、作業計画を組まなくてはなりません。
アーク溶接作業者
代表的な溶接技術ですが、実は特別教育を受けるだけで取得可能です。未経験者からスタートするときにまずは最初に取得を目指しておきたい資格です。実務経験も不要で難易度も低く、3日間で取得可能となります。
しかも、満18歳以上だとだれでも受験できるという敷居も低いので、とりあえず資格だけでも受講しようとする人も多くみられます。
費用も10,000円から20,000円程度ですので、これから溶接の仕事を探す人やDIYで溶接をしてみたい人などにも人気の資格といえるでしょう。
ガス溶接技能者
ガスを扱ってアーク溶接よりも高温作業になりますが、こちらも取得は簡単で試験内容も難しくはありません。ガス溶接は難しいイメージが先行するものですが、学科8時間と技能5時間程度ですので、満18歳以上ならだれでも受験可能です。
費用もアーク溶接と同等程度となっています。
ボイラー溶接士
ボイラー溶接士は国家資格です。普通ボイラー溶接士と上位資格の特別ボイラー溶接士があります。普通ボイラー溶接士は溶接の実務経験が1年以上必要で、学科試験と実技試験があり、費用は学科が6,800円、実技試験は18,900円となっています。
アルミニウム溶接技能者
自動車工場で活躍できる資格で、満15歳以上の実務経験1カ月以上ならだれでも受験可能です。年齢の敷居が低いので合格率も高くなっています。ただ、アルミニウム溶接は鉄と違って溶けやすいので溶接には十分な注意が必要となるでしょう。
費用は10,000円から30,000円程度となっています。
溶接作業指導者
溶接技能者に指示や指導を行う上位資格で、転職には有利となる民間資格です。その分、費用も54,000円と高額になっており、取得すれば溶接のスキルや知識が一定以上あると認定されます。実務経験3年以上で満25歳以上であれば受験可能です。
溶接管理技術者
溶接技術管理者のさらに上位資格で、溶接技術のスキルに関しての証明には申し分ありません。工場よりも工業や建設業で活躍できる資格であり、工業プラントなどの大型なエネルギー設備も担当することができます。
ガス溶接作業主任者
ガス溶接技能者の指導や管理監督を行っており、さまざまな工場で活躍できます。実務経験が3年以上あれば学科試験のみで受講可能で、勉強して臨めば取得しやすい資格です。ガス溶接に関する法令や知識を有する資格ですので、転職でも有利に働くでしょう。
溶接工の活躍場所
溶接工の活躍場所を紹介していきます。主に建設現場や工事現場、そして工場勤務があります。
建設現場
建設現場や工事現場では金属を溶かして接合することは非常に多くあり、溶接スキルがあれば重宝されます。建設現場や工事現場では一般的な工場よりも扱う建材が大きくなっており、融接や圧接でのスキルが求められています。
機械工場
自動車や重機などの組み立てや部品工場などの製造現場では、溶接工の活躍が大きくなっています。自動車工場ではオートメーション化が進んではいるものの、まだまだ細かい部位の接合などの技術は人の手作業が必要です。
自動車工場や部品工場では扱う母材も多種多様で小さな部品もあります。また、溶接した部品をさらに組付けの際に溶接するなど、ラインによる流れ作業も一般的といえます。
また、自動車工場以外の機械工場では、普段は研磨工として作業していても、機械トラブルや重保全などのメンテナンス時にアーク溶接で作業することがあります。毎回溶接工として作業するわけでなく、作業の一環で溶接を担当する工場でも活躍できるでしょう。
溶接に向いている人
溶接作業にはどのような人が向いているのでしょうか。特徴をみていきましょう。
モノづくりの現場に携わりたい・貢献したい人
溶接工は製造業に欠かせない仕事なので、モノづくりの現場に携わりたい人や貢献したいと考えている人も向いています。溶接工の仕事は多岐にわたり、突発的な作業も当然あるものです。
たとえば、機械で加工されたワークを搬送する際、ワークが安定せずに向きが揃わず、どうしても擦り傷が発生して品質的に問題がある場合があるとします。そこで、機械と搬送装置との間にガイドを溶接し、ワークが一列に整列して搬送できるように改善可能です。
これは一例ですが、溶接は普段の仕事だけでなく、工場で使っている部品や治工具が摩耗したときにも活躍できます。
それだけに、モノづくりの現場では自分の仕事が価値のあるものとして貢献できるので、非常にやりがいのある仕事となるでしょう。
慎重で一つの作業に没頭できる人
溶接作業は高温で危険なものでもあります。大雑把な作業をしていては溶接が脆くて納品後に思わぬトラブルが発生することがあります。立ち仕事や厳しい姿勢を続けることもあるので、体力や集中力も必要な仕事です。
電気やガスを扱う以上はケガもしやすいので、慎重に作業して没頭できる人も向いていることでしょう。自動車板金では金属板を曲げるためにハンマーでたたくこともありますので、力も必要な場合があります。何より高温での作業が多いので非常に暑い環境で働くこととなり、集中力が続かないとケガを誘発する恐れがあるでしょう。
スキルUPで極めていきたい人
溶接工の作業は製造業に必要なものであり、計画的な工程の作業はもちろんのこと、先述したように自工場の突発的なトラブルにも対応する場合があります。そのような環境で働く溶接工はどんどんスキルUPを務める機会が多くあり、熟練の溶接工の技術を教わる場面も多々あります。
溶接工は需要の多い仕事なので、スキルUPを図りやすく、とことんまで極めたいという人もむいているでしょう。また、溶接の資格をどんどん取得したい人にもおすすめです。溶接の仕事というのは日常生活に欠かせないものなので、たくさんの素材を扱うことで新しいスキルを磨くことが可能です。
仕事の幅を広げてスキルを向上させたい人には向いているでしょう。
安定した仕事に就きたい
溶接工はスキルが重宝される仕事でもあるので、経験を積んでいけば安定した収益を見込めます。日本はモノづくりの工場が非常に多くあり、メイドインジャパンはいまだに健在ですので、溶接工として活躍できるのは長く続けられる安定した仕事といえます。
工場勤務で安定した仕事に就きたいと考えている人にとって、溶接工は向いている仕事でしょう。
溶接の仕事で大変なこと
溶接の仕事はやりがいがあるものの、大変な作業も抱えています。代表的なのが体感温度です。専用の防護服やヘルメットを着用するので、それだけでも暑いのですが、板金などでは密封された部屋で作業することも多くあります。高温と部屋の室温で体力を必要以上に消耗する場合があるので注意が必要です。
大企業や中小企業まであらゆる工場で活躍できますが、働く場所の環境によっては換気も悪く、人手不足で休日出勤や残業も多いなど、一人あたりの負担が増す場合があります。
また溶接工は、資格自体は容易で取得できるものの、作業内容は技術を求められるものです。高い技術を求められるのが大変と感じる人も少なくありません。
もちろん個人差があるので、このくらいは大丈夫という人もいればかなり厳しいと感じる人もいるでしょう。
溶接工で働く人の年収
厚労省の職業情報提供サイトでは、溶接工で働く人の学歴は高卒が圧倒的に多く、60%を超えています。また、高卒未満を含めると実に70%以上に上ります。溶接工には学歴よりも現場の経験がモノをいう仕事といえるでしょう。
令和3年度賃金構造基本統計調査では、溶接工は全国で163,710人、平均年齢41.4歳、年収は424.8万円となっています。
同サイトでは内閣府の法人企業景気予測調査も見ることができますが、製造業の予測は右肩上がりと好調を示唆しています。少子高齢化社会に突入する工場では、溶接工の需要は多くあり、オートメーション化に進めない中小・零細企業において、まだまだ活躍の場は多いといえるでしょう。
※参考:厚労省 職業情報提供サイト
https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/255
溶接工の志望動機で注意するポイント
溶接工で働きたい人にとって、気になるのが面接での志望動機です。特に未経験者にとってはどのようにアピールすればいいのか悩む問題といえるでしょう。面接官が注目するポイントは集中力や素直さがあるかどうかです。
技術は後から付いてくるというのが多くの製造業では見られますが、溶接工は集中力や忍耐力も必要になります。緊張することはあるでしょうが、落ち着きのない雰囲気は集中力が足りないと見られがちです。また、熟練の先輩から指導してもらわないと一人前の溶接工にはなれません。謙虚さも必要ですから、面接官の話をないがしろにして、自分のことばかりアピールするのもマイナスになりやすいので注意しましょう。
「専門性の仕事で自分を磨きたい」
「モノづくりの現場に携わりたい」
「日常生活で多くの技術が使われている溶接でだれかを喜ばせたい・貢献したい」
など、溶接工として何がしたいのか、しっかりとアピールできるようにするのがポイントです。体力に自信があるのもアピールポイントになります。
溶接工は将来性も十分見込める
溶接工は製造業の現場でも十分将来性が見込める仕事です。そもそも慢性的な人手不足に陥っている製造業では、技能実習生の受け入れを率先しています。しかし、技能実習生は将来的にスキルを身に付けて自国へ帰る外国人ですので、本質的な人手不足の解消にはつながっていません。それだけに溶接工は各工場でも必要な人材といえるでしょう。
また、日本のモノづくりには溶接の作業はまだまだ需要が見込めます。自動化も進んではいるものの、まだまだ機械では補えない細かい箇所は人の手作業が必要です。
これらのように、日本の溶接工は将来性も十分見込めますので、全くの未経験でもやる気があれば活躍できる環境が整っています。
まとめ
溶接は製造業の要でもあり、欠かせない職種といえます。溶接は「融接」「ろう接」「圧接」と3種類からあり、代表停なアーク溶接は簡単な試験で資格を取得できます。溶接工の仕事は自動車の板金や建築現場など、多岐にわたっており、自工場の設備における修理やメンテナンスにも携わることがあります。
溶接工は需要もまだまだ見込める職種ですので、ここで紹介した向いている人の特徴や大変さを理解しておくようにしてください。