製造業を取り巻く環境は依然厳しいものとなっています。円安によるエネルギー価格の高騰だけでなく、イランとイスラエルの戦闘によって原油価格の高騰が懸念されています。
また、少子高齢化に伴う変わらない人手不足の影響もあり、黒字化へ向けた施策が各社で急務となるものです。
現場となる工場でもムダを省いた生産体制の構築が必要であり、新たに基幹システムを導入する企業も増えています。
そこで、工場における基幹システムの重要性や業務効率化、メリットについて解説していきます。
基幹システムとは
基幹システムとは工場の仕入れとなる材料や製造、出荷や在庫といった各データを一元化することを指します。工場の規模にもよりますが、これらを一人で担当するなんてとても無理であり、生産管理でも調達と出荷は別の担当者が配属されるものです。
しかし、担当者が別になると、現場の責任者は生産計画を作る担当者と合わせて3方向(調達・製造・出荷)への打ち合わせが必要であり、客先納期の変更や材料の遅れがあると各方面への伝達も面倒といえます。
むしろ、現場の生産状況を把握しながら回すことが一番優先となるので、担当者が休暇になると対応が遅れてしまいがちです。
ここに一元化されたデータが存在すると、納期から逆算したリードタイムで材料がいつ必要になるのか分かるようになり、それに合わせて現場も動きやすくなります。
また、現場と離れた場所にいる生産管理や管理職の方たちは、状況をディスクワークのまま把握できるようになり、進捗管理に毎回現場へ足を運ばなくても済みますし、電話(PHS)をかけて現場作業を止めなくてすむようになるでしょう。
このように基幹システムはどの場所からでも調達から出荷までがリアルタイムで把握できるようになり、生産計画の見直しにも役立ちます。
製造業で使う基幹システムも、広義には調達から出荷を含めた生産体制の一元化となりますが、狭義にはそれぞれ役割が異なります。
たとえば、すでに導入している工場も多いものですが、在庫管理システムも基幹システムの一つとして存在しています。
工場における基幹システムの重要性
工場における基幹システムの重要性をみていきましょう。
工場全体の業務効率化
先述しましたが、工場の課題は非常に多くなっています。慢性的な人手不足、原油価格の高騰による材料費の値上がりなど、製造業全体で工場の業務効率化を進めることが課題となっています。
基幹システムはデータの一元化ができるので、リアルタイムで閲覧することが可能です。まず、他部署や担当者に連絡する時間が削減できます。もちろん、自分で調べる時間は必要ですが、移動もせずにオンライン上で調べることができますので、むしろデータを検索する手間が省けます。
いってみればムダを省く作業につながり、業務効率化を進める点においては非常に有利となるでしょう。
現場も活用できる
実際に現場業務をしていると、多品種のロットを生産することがあります。大ロット生産の場合はライン生産で大量生産可能ですが、小ロット多品種の場合だとラインから切り離して生産する必要があります。
小ロット品の場合、前回どの工程をどの設備で流したのか、いつ流したのか、在庫はどれほど残っているのかといった詳細を現場も知りたいものです。生産管理や品質管理の部門はそれぞれ日報データから履歴を調べることができますが、普段生産活動をメインにしている現場はそうはきません。
恐らく、現場にパソコンを設置していない工場も多いでしょう。場内のミストによって油汚れが目立つことから、現場の作業者は普段パソコン作業をしていない部署も珍しくありません。
そうなると現場には全員が兼用できるパソコンが各エリアに1~3台程度置いてあるくらいです。現場で管理しているデータというのは存在しなくなるので、知りたいデータをすぐに調べることができなくなってしまいます。
そこで、基幹システムを導入していれば、現場も各種データを閲覧できるようになり(インターネット回線は必要)、履歴の確認などデータを把握しやすくなります。
正確なデータを管理
基幹システムは常に新しい情報をリアルタイムで取り入れますので、データが重複する恐れがありません。人の手作業で集めたデータだと、どうしてもチェックが怠って重複してしまい、確認作業も増えてしまいがちです。
特に古いデータをそのままに忘れてしまうので、後で重複することに気付けば、整理するのも大変な作業といえます。
その点、基幹システムを導入することで古いデータはそのまま残りますから重複することもなく、いつでも確認することが可能です。
常に正確なデータを管理できるので、工場にとって基幹システムを導入する重要性は高いといえるでしょう。
工場で基幹システムを導入するメリット
工場で基幹システムを導入するメリットをみていきましょう。
コア業務へ人員を配置できる
慢性的な人手不足は今後も継続して課題となっていくものです。そこで工場のコア業務となる製造現場へ人を補充したいのですが、なかなか採用も上手くいかないものでしょう。また、定着すればいいのですが、離職率が高いとなかなか人が育ちません。
そうなると現場が回らなくなるので残業や休日出勤でしのぐようになり、ハード勤務に疲れてさらに離職率が上がってしまう可能性が高まります。
そのような現場は人を指導する機会もないので、後継者が育たないという大きな課題に直面し、品質面にも影響を及ぼしてしまいがちです。
そこで、基幹システムを導入すると、これまで手作業でデータ入力していた部分が自動化され、一元化されることで管理業務も楽になります。
データ作業に追われていた人材をコア業務に配置換えすることが可能なので、人材を新たに雇うことなく補充できます。しかも、一からの新人ではなく、自社の風土やルールを知っている作業者になるので教育もやりやすいものとなるでしょう。
在庫管理システムとの連携
工場では在庫管理システム(WMS)との連携をすることでよりリアルタイムで高度なデータ管理を実施できます。WMSでは完成品のラベル発行、出荷や在庫のロケーション管理、入荷場の受け入れ管理を一元化に取り入れられます。
出荷場では検品が終わった完成品をラックに納入していますが、余剰在庫は同じラックに入れずに専用の棚に保管している工場が多いものです。
こちらの棚もロケーション管理しており、そのデータを一元化に入れることで、生産管理も在庫がどれほどあるので次回の調達は少な目にしておこうというのが分かりやすくなります。
また、製造業全体で見える化が進むと、グループ工場の在庫も見えるようになります。たとえば、A工場で部品を生産し、B工場で完成品を組み立てる場合を想定しましょう。B工場の生産ラインで不良品が発生させた場合、B工場の生産管理がA工場の在庫を瞬時に把握できると、そのまま生産計画を崩さずにA工場に発送手配をするだけで済みます。
DX化を促進する
工場で基幹システムを導入することはDX(デジタルトランスフォーメーション)化にもつながります。DXとはITを活用した企業風土の変革であり、従来のやり方を大きく変える基幹システムはまさしく工場のDX化といえるでしょう。
DX化を促進することは、工場全体の意識を変革するものであり、現場やスタッフ業務にもIoTを含めた工場全体のDX化へとつなげることが可能です。
DX化になっていくと工場全体の底上げにもなります。
クラウドを活用した効率化
基幹システムはクラウド化で進めています。システム導入になると膨大なデータが必要でメンテナンスも大変です。クラウド化することで自社のメンテナンスは必要最低限でいけますし、基本的に1時間程度停止するだけで完了します。また、工場の休日に合わせてメンテナンスを実施してもらえるでしょう。
それだけに常に最新のシステムに移行することが可能です。自社でカスタマイズする必要がないので、新しいシステムができれば更新するだけで利用可能となります。
また、クラウド化すれば初期費用をかなり安く済ませることができます。その分だけランニングコストもかかりますが、導入コストがかなり高価ですのでクラウド化にして初期費用を抑えるのは十分メリットが見込めるでしょう。
工場の基幹システム導入での課題
工場で基幹システムを導入する場合、メリットばかりではありません。中には課題もありますので、十分検討することが必要となるでしょう。
セキュリティ面
インターネットを介して行うサービスですので、当然ながらセキュリティ面の対策は必須です。サイバー攻撃はもちろん、サーバーが負荷をかかるようなことがあればシステムが全停止してしまいます。
予期せぬトラブルでシステムエラーとなってしまう場合、出荷や入荷処理ができなくなり、工場全体の機能がマヒしてしまいます。
どんなトラブルが起きるか予測できませんので、オフラインで作業できるようなマニュアルを用意しておくこが重要です。
特に24時間体制の工場では、夜間にシステムエラーが起きてしまうと大変です。すぐに対応できないので、ある程度はオフラインで動けるようにしておきましょう。
現場への教育
基幹システムは工場全体に関わることです。普段パソコンを触らない現場作業者にもしっかりと教育が必要となります。特にこれまでの業務内容がガラッと変わってしまうような変革では、長年現場に勤めているベテラン作業者には受け入れがたい場合があるかもしれません。
基幹システムをしっかりと理解していることで、工場全体の変革が進みます。長年同じ作業を続けている現場作業者は、現場の変化をなかなか受け入れられないものです。内容だけでなく、システムを導入することでどのようなメリットがあるのかしっかりと説明するようにしましょう。
まとめ
工場での基幹システム導入は生産業務の一元化となり、業務効率化とつながります。基幹システムによって下記のメリットがあります。
・コア業務への人員配置
・在庫管理システムとの連携
・DX化の促進
・クラウドを活用した効率化
もちろん、セキュリティ対策や現場への教育など課題もありますが、それ以上にメリットの多い施策といえるでしょう。