製造業ではDXの一環としてIotを導入している工場も多く見られます。Iotはモノのインターネットとしてさまざまな変革を成し遂げており、今後も幅広く浸透していくことが予想されています。ただ、名前は聞いたことがあっても、実際にどのような技術なのか分からない人も多いでしょう。
そこで工場でIotを導入するメリットやITとの違いも解説していきます。
Iotとは
ひと言でいうとIotとはモノのインターネットになります。パソコンからインターネットに接続するのが主流だったものですが、Iotの登場でモノ同士がインターネットを介してデータを通信できるようになりました。
これは工場で導入するとさまざまな面で役に立ち、業務効率化にも一役買います。データは見える化されてその場にいなくてもリアルタイムでデータを収集できるようになり、工場の生産体制を大きく変える要因にもなっています。
ITとの違い
似たような言葉で従来から使われているのがITです。ITはインターネットを含む情報技術の総称で1995年のIT革命を区切りとして業務のデジタル化が推進し、インターネットが社会に普及していきました。
当時の高速通信を可能としたブロードバンドや携帯電話が爆発的に普及していき、これまでパソコンを持っていない人でも簡単にインターネットを介したサービスが受けられるようになっています。
ITは情報技術の意味合いを持ち、Iotはその中でもモノとモノをインターネットでつないでいます。いってみれば、ITの中の手段としてIotがあるイメージといえるでしょう。
スマートファクトリー
工場勤務をしているとスマート工場を目指すという企業目標を目にする機会があるものです。スマート工場とはスマートファクトリーともいい、工場内の設備や機器類をネットワークでつないで生産性の向上や業務効率化を目指ししています。
スマートファクトリーでは必ずIotの技術が必要です。設備の稼働状況をリアルタイムで把握するにはネットワークを通じて情報を送信しなければなりません。
Iotによるモノとモノがインターネットでつながっていることで、工場内のデータをひとまとめに収集し、よりよい方向に向けて改善活動を行えるようになります。
Iotを導入する背景
製造業がIotを導入する背景として、人材不足の解消と生産性向上が挙げられます。少子高齢化に伴って若い世代の働き手が減少し、技能継承もままならない工場が増えています。また、原材料の高騰などもあって利益を確保できる生産性の向上も重要課題です。
これらを満たすのは現状のやりくりではどうしようもないところまで来ており、Iot技術を活用することで設備の自動化における省人化やムダのない生産体制の構築が期待されています。
工場のIot導入で起こるメリット
ここまで紹介した背景もあって、製造業ではIot化を目指す工場が増えています。そこで。工場のIot導入で起こるメリットをみていきましょう。
見える化
一番の大きなメリットは工場内の見える化です。既存の設備にコントローラやセンサーを介して情報を飛ばし、稼働状況を収集することができます。
たとえば、工場の設備にはパトランプが設置されており、稼働中は緑ランプの点灯、異常時は赤ランプの点灯、待機中は黄色ランプの点灯と区別していることがあります。またパトランプは職種の状況によって点滅も含めると、さまざまな状態を作業者へ知らせることが可能です。
このパトランプを活用して信号を送り、稼働している状態と停止している状態がリアルタイムで把握できるようになります。設備の稼働状況で赤ランプが多発しているようだと、生産技術がすぐに対応できるようにできますし、前工程の材料待ちになっている設備も生産管理がすぐに把握できて対応できます。
このように工場内の他部署からもすぐに連携できるのがIotのメリットといえるでしょう。
省エネ化
カーボンニュートラルに向けた施策を各工場で採用しているものですが、Iotでは設備の稼働状況で無駄なエネルギーを使用しているのかが分かるので、環境面でも活用することができます。
これまでは工場全体の省エネとして全体のエネルギーを減少させる取り組みしかできませんでしたが、Iotの導入で設備単位の消費電力を調べることができるようになっています。たとえば、同じサイズの型番で同等の設備複数台ある場合、加工サイクルやワーク取り代も変わらないのに消費エネルギーの違いが分かるようになります。
この場合だとエアー漏れによる空圧の差やモーターの負荷が大きくて電力の消費が多いなど、普段分からないことも数値で把握できるようになります。
また、動いていない設備がずっと電源やエアーが入りっぱなしになっていることもありますし、Iotの導入によって省エネに向けた施策を打ちやすくなるでしょう。
自動制御で遠隔操作
Iotを導入すると遠隔操作が可能となります。必要な時間に稼働するなど制御されたロボットが自動化されて搬送などを担当することで省人化も図れますし、離れた場所から監視することも可能です。作業者の安全面でも効果が期待できます。
遠隔操作はAIを組み込んだロボットとも連結されると、効率的に倉庫へ自動的に物を運んだりできますし、監視側から指令も送れます。
効率的な生産体制の構築
Iotの導入によって工場内の見える化が進むと、生産体制の効率化が図れるようになっていきます。生産管理はリアルタイムの進捗状況が分かるので、交替勤務の夜間にどれだけ進捗が進んでいるのかが翌朝にすぐ把握できるようになります。
これまでは日報から個数をエクセルに入力して把握できるようになっていたのが、Iotではシステムに入るだけで設備単体、ライン全体、工場全体の進捗状況が見えるようになります。
これによって生産の遅れも把握できて計画の練り直しや後工程に指示を出すこともできますし、納期が遅れそうな場合は早めに客先へ連絡することも可能です。
また、ダウンタイムも分かるので、ネック工程における要因解析にもつながり、生産技術や現場と連携してダウンタイムを早急に解消する対策を練ることができます。
人手不足の解消
Iotでは省人化に向けた対策も期待できます。AIを搭載したプログラムをIotでネットワークにつなげ、設備から加工された製品を自動搬送機で振り分けることも可能です。
これまで人が行ってきた手作業もなくなり、属人化から省人化へ向けた動きを取ることができるでしょう。
特に少子化に伴い人手不足に悩む工場は多いでしょうから、Iotの導入によって自動化が進めば、工場のメインとなる作業に人材を集中することができるので、人手不足の解消にもつながります。
夜間対応が改善
24時間フル稼働している工場では夜間も人員を配置しないといけません。基本的に日勤帯よりも人手が少ないものですから、夜間の場合は稼働中の設備トラブルにも気づかないケースも珍しくありません。
ずっと停止したまま放置されていると稼働率も低下して効率が悪いものです。ここに遠隔操作で監視できるIotが設置されていると、夜間でも離れた場所から設備の異常をすぐに察知することができます。
システムで他の工場とも共有化
Iotの素晴らしいところは基幹システムと連結して、他の工場からでもデータを共有できる点です。グループ企業として存在しても、各製作所ではそれぞれ異なるシステムを使っており、やり方も工場長の采配に任されていることもあります。
Iotを導入して収集したデータが他の工場にも反映されるようになると、稼働率の優れた工場のライン体制を自社工場と比較検討することが容易となります。
また品質面の検査データのやり取りや、工場間で納品がある場合には加工データの比較もできます。さらに、自社の熱処理工場や部品工場からの進捗も、完成品組み立て工場へとデータで見える化となりますので、進捗管理が非常に分かりやすくなるでしょう。
工場のIotに関する課題やデメリット
もちろん、工場のIotはメリットばかりではありません。中には導入するための課題やデメリットが大きいこともあります。
導入コスト
一番のデメリットはやはりコスト面です。大企業クラスになると資金力も豊富ですので、スマートファクトリーを目指しやすいといえます。Iotの導入には多額のコストがかかりますので、中小企業が多い製造業の工場ではなかなか導入に踏み切れないこともあるでしょう。
大手系列でもすべてのラインに導入するのは厳しいこともあり、そのような場合はメインとなる一部のラインにのみ導入してそのままになってしまうケースもあるでしょう。
人材教育
IotはIT技術に長けた人材を確保しなければなりませんので、社内でITに関する人材育成が急務といえます。Iotを設置するのは現場ですので、現場の作業者たちと小まめにすり合わせていける人材が求められます。
また、トラブル対応のためにも個人単位ではなくチームで動くほうが効率はいいので、Iotのリーダーも確保する必要があるでしょう。
自社でIotの人材教育をしていくのは大きな課題ともいえます。
データの活用方法が決まっていない
Iotという言葉に飛びついてとりあえずやってみようという事業者の場合、せっかく収集したデータの活用方法が定まっていないこともあります。このような場合、ただ単にシステムを更新したコストがムダになるだけでなく、Iotによってもたらされた現場の変革に教育が不十分で周囲が付いていけないというデメリットを生んでしまいます。
Iotを導入する場合は、どのように活用していくのかをしっかりと明確にしておく必要があるでしょう。
ベテラン作業者の反感を買う
Iotに移行すると、これまで自分のペースで仕事をしていたベテラン作業者たちの反感を買いがちです。仕事をサボっている訳ではなく、工程間の作業を一人で行っている場合、稼働率の状況をグラフ化されてしまうと効率が悪い設備と認識されてしまいます。
長年の習慣で作業時間を自分のやり方で動いている人ほど、管理体制には反感を抱いてしまうものです。特にIT技術とは程遠い人ほどIotでリアルタイムの進捗管理をされるのは嫌悪感を抱き、仕事に対するモチベーションも低下してしまいます。
しっかりとIotのメリットを説明してベテラン作業者のモチベーションを低下させないようにしなければなりません。まずはIT技術に関しての苦手意識を持たないようにしていくことから初めてみましょう。
システム障害で稼働状況が分からない
Iotはすべてがネットワークでつながっています。思わぬシステム障害になってしまうと設備が止まることはないものの、リアルタイムで把握していたデータがすべて不明になってしまいます。こうなると普段からIotに頼っていた部署は思わぬトラブルで身動きが取れなくなってしまい、復旧までに進捗を知ることができません。
紙ベースで作業していた場合は統計がエクセルで残っていますのでプリントアウトなどができますが、Iotがシステム障害になるとシステムにログインできなくなる恐れがあるのでこれまでの数字を見ることもできなくなってしまいます。
まとめ
Iotはモノとモノをインターネットでつなぐ技術で、工場の生産性を高めるのに役立っています。どの部署からでも稼働状況の見える化を図れるので、効率化だけでなく省人化や省エネにもつながるメリットの多い技術です。工場のIotは今後も新しい技術が発展していくことが期待されます。