工場転職ガイド 工場勤務の実態、溶接やフォークリフトなどの資格や、ピッキング作業など工場勤務全体を紹介
XR技術というのをご存知でしょうか。VRやARという言葉をゲームなどで耳にしたことはあるものです。これらの技術は製造業においても今後幅広く使用されていくことが予想され、将来性のある分野といえます。
そこで、XRとはどのようなものかに合わせて、工場におけるXR技術の取り組みや将来性について解説していきます。
XR（クロスリアリティ）という言葉が比較的新しい分野です。デジタル技術が革新的に進み、今では現実世界と仮想世界が見事に融合されたものが世界中で作られています。XRには「VR」「AR」「MR」といった技術があり、それぞれがさまざまな分野で取り入れられています。
XRはこれらの技術の総称として呼ばれています。
VR(Virtual Reality)とは仮想現実を意味する「バーチャルリアリティ」を指しています。専用のゴーグルやヘッドセットを装着して、その場にいながらさまざまなシチュエーションをリアルに体感することが可能です。
たとえば、山や海、宇宙などの空間はもちろん、過去の時代に入り込むこともできます。いろんな仮想空間を体感できるので、ゲームの世界でプレイしたことある人も多いものでしょう。
また、ビジネスでも実践されており、不動産の内覧などは実際の間取りを現地に行かなくても体感できるサービスがあります。
AR（Augmented Reality）とは、拡張現実を意味する「オーグメンテッドリアリティ」を指しています。拡張現実と言葉で聞くと今一つ分かりづらいイメージになりますが、現実世界に仮想空間のビジュアルを追加することが可能です。
分かりやすい例でみると、世界中で大ヒットしている「ポケモンGO」のアプリが参考になります。現実のマップにポケモンがアニメーションで入り、スマホのカメラを通して動きも入るのでリアルタイムでの楽しさが倍増します。
スマホのネットショッピングでは大型家具や家電のサイズを実寸で自宅に表示させることができます。これもARの技術で自宅に投影させれば、購入後に寸法が合わなかったということがありません。
MR(Mixed Reality)とは、複合現実を意味する「ミックスドリアリティ」を指しています。MRはVRとARを複合させた技術で、ARを発展させているのが特徴です。ARはデバイスの画面上に表示させることができるものの、背景よりも上にきてしまうので立体的にみると現実世界が中心です。
しかし、MRではデジタル画像が現実の距離感を忠実に表しており、リアルに体感することが可能と言えます。現実には触れないものでも立体的に再現可能で、複数人でも同時に利用できるのでトレーニングにも最適といえるでしょう。
工場でXR技術を取り入れる背景として、人手不足における教育とAR機能の革新があります。特に問題とされているのが後継者不足における技術継承で、将来的な工場の運営にも大きな影響を及ぼしてしまいます。
少子高齢化社会によって若い世代自体が少なく、新卒者もなかなか応募が少ない場合もります。また、原油や原材料の高騰によって原価が圧迫し、新人を雇う余裕がない企業も少なくありません。
さらに熟練の作業者というのは教えるよりも盗んで覚えるという風習が強いこともあり、若い世代への教育が疎かになって後継者が育たない面もあります。
マニュアルが何十年も古いままで更新されておらず、熟練作業者も教育熱心な人がいても、慢性的な人手不足によって現場を回すのが精一杯という工場も少なくありません。
工場側が配置転換などをすればいいのですが、とりあえず納期を優先するあまり、後継者の育成を工場全体の目標に掲げていても一向に改善されないケースが多々あります。
このように人手不足による影響の中で、後継者が育つ環境ができていない工場が多いものです。そこでXR技術を用いて後継者を育成する土台を作ることが期待されています。
XR技術の進歩には通信環境が進化している背景があります。DX化を推進している工場では通信環境を整えているもので、これが大容量かつ高速通信を可能にしている5Gへ移行すうのにつながっていきます。
遠隔操作が可能なXR技術では円滑な作業のためにも快適な通信環境はとても重要です。製造業がXR技術を導入するのも通信環境が社会全体に広がっていることと関係あるでしょう。
XRでは設計の段階で形にすることができます。通常はパソコンや紙ベースの図面を用意して担当者同士が意見を出していきますが、XR技術を導入すると全員がそこにないはずの完成品を可視化することができ、建設的な意見が飛び交うようになります。
設計段階での完成品導入時におけるミスが少なくなり、現場の作業者の意見も取り入れやすくなります。
工場でXR技術を導入するメリットをみていきましょう。
工場の人員不足によって技術継承が進まない場合、XRを導入することで解消することができます。ARでは実際の現実空間にデジタル情報を融合させることが可能です。難しい作業内容の場合でも設備上に詳細なデータや注意点を表示させることができるので、手順書を見ながら作業することもなく、集中して取り組めます。
また、実際の指導者がそばにいなくても指導可能で、離れた場所から同時に教育できるのもメリットといえます。
たとえば、設備の段取りを教育する場合、同一設備上だと一人の作業者しか工具を扱うスペースがありません。他の作業者たちは後ろから見ているだけになってしまい、均等に教育を行えないものです。
同じ設備が複数ある工場だとより効果的で、指導者は事務所にいながらでも同時に複数人を一斉教育が可能です。質問事項に対しての返答もリアルタイムで書き込んで共有できるのも特長です。
見て聞いてメモを取りながらよりも、実際に作業しているほうが何倍も覚えやすいもので、そこにテキストの情報が自然と視認できるのは作業者もやりやすくなります。
また、火花を扱う作業の場合、VRでは離れた場所からでも熟練者の作業を見ることが可能です。VRでは作業の風景を体感できるので、細かい動きなどの注意点も捉えることができるでしょう。
厚労省の職場のあんぜんサイトによると、令和４年の労働災害死亡者数は778人で、工場は140人と建設業に次いで多くなっています。その内最も多いのがはさまれ・まきこまれによる災害で56人、墜落・転落が23人となっています。
工場ではどれだけ気を付けていても常に危険が潜んでいます。安全に関するミーティングを実施し、KYT（危険予知トレーニング）を取り組んでいる職場も多いことでしょう。
また、安全パトロールによる職場の危険個所チェックを実施している工場もありますが、それでもゼロにするのは難しいもので、ヒヤリハットを完全に防ぐことは不可能ともいえます。
まずは安全に対する教育を徹底することが大切です。工場のスローガンといえば「安全第一」がモットーといえますが、実際は現場が忙しい場合だと多少の安全対策は軽視されていることが多く見られます。
ヘルメットや保護メガネの着用忘れ、設備安全カバーを外したまま作業、稼働中に設備を止めずにワークを除去するなど、普段は事故が起きないので慢性化してしまっている作業というのが目立ちます。
新人時代は特に気を付けるものですが、慣れてくると自分は大丈夫と慢心しがちです。そこで、VRを導入して事故がどのように起きてしまうのかリアルに体感させることで作業者に注意喚起できます。
KYTで注意喚起しても人数が集まるミーティングではなかなか発言しない人もいますし、紙や写真からではイメージしづらい人もいるものです。
しかし、VRでは専用のゴーグルやヘッドセットを装着することでその仮想空間に集中しやすくなり、実際に事故の状況を体感させることで引き締まります。気分が悪くなる人もいるので、アフターケアは重要ですが、リアルな体感は研修でビデオを見るよりも安全意識を高めるには効果的です。
XR技術を活用することでスキルアップにもつながります。先述した教育とかぶる面もありますが、より一歩踏み込んだスキルアップではMRを導入すると効果的です。
MRはARの進化版で仮想空間のデジタル映像を触ることができます。多角的に操作できるので、段取りからさらに踏み込んだメンテナンス作業や特殊作業の教育やマニュアルにも使用できます。
実際の作業にも使えるだけでなく、トレーニングにも利用できます。暗黙となっている領域にも踏み込んで映像を映し出せるので、作業者間の認識を統一することが可能です。遠隔操作も可能なので、自分で分からない点は指導者が離れた場所にいながらMR上の空間にポインターを当てるなど、操作してほしい場所を指摘しながら説明可能です。
作業者のスキルアップは現場力が強くなっていき、組織力の向上にもつながるでしょう。
倉庫ではモノを整理するときに、多数の重量物を運びながらどの場所に配置すればいいのか検討することがあります。これではいちいち面倒で、時間もかかりがちです。
ARを使えば動かしたいサイズのモノがどの位置にくると最適なのかを、現実の空間を見ながら想定することができます。モノのサイズや量がデジタルデータとして表示され、ラックの最大重量や棚の高さ制限に収まるような配置替えも容易に行えます。
さらにリアルタイムで共有できますので、管理者や他の作業者、生産管理とも協業して作業可能です。
また、設備のレイアウト変更もARで検討できます。生産性向上へはレイアウトによる作業者の動線も重要です。ただ、一度動かしてしまうと設備のレベル出しをやり直す必要がありますし、工事も大がかりです。
ARだと作業性や安全性も現実空間で確認することが可能で、効率の良いレイアウト変更を実施できます。新規設備の導入にも活用できるでしょう。
２０１９年に世界中で蔓延した新型コロナウイルスは多方面に影響を及ぼしました。まだまだ変異株も登場しており、予断を許さない状況といえます。しかし、生産活動を止める訳にはいかないので、対人関係の構築は重要といえるものです。
XR技術では遠隔操作が可能なので、教育にも対人接触をする必要がありません。一人作業で教育可能ですし、複数の作業者をまとめて指導できます。これまでは会議室やミーティングルームでも距離を取ることで人数制限してきたこともあるでしょうが、XRではそのような配慮が不要です。
また、このような技術は工場見学にも役立ちます。コロナ禍では工場見学が一斉に中止となっていましたが、VRを導入すればリアルに体感できます。VRではただ回るだけでも十分に面白いですが、デジタル情報を取り入れたARではより一層詳しく工場見学を実施でき、知りたい内容を容易に周知させることができます。
XR技術は専用のヘッドセットやゴーグルを装着しますので、基本的にハンズフリーで作業できます。ARではスマホやタブレットを用いることもありますが、作業をする場合はハンズフリーが基本です。
従来の手順書やマニュアルを見ながらになると片手がふさがっており、時間もかかりやすくなります。XRではハンズフリーなので両手は作業に集中することができ、作業時間を大幅に短縮できます。これは作業者や工場の両者にとって効果的といえるでしょう。
また、外国人労働者の技能取得に役立ちますし、言葉の壁といった問題を解決することができるでしょう。
XR技術は「VR（仮想現実）」「AR（拡張現実）」「MR（複合現実）」があり、工場でも導入することで大きなメリットがあります。
特に「人手不足による技能継承」「安全意識の向上」「スキルアップ」は工場の重要課題にもなっている職場が多いでしょうから、XR技術が大きく貢献しているのが分かります。
まだまだ将来性の高い分野といえ、今後もさまざまな技術が開発されていくことが期待されます。
